低空飛行 その2
パイロットの定年は60才であった。
俺が定年になる年にパイロット不足を理由に63歳まで飛行できるようになった。
ただし、特別な航空身体検査に合格するのが条件である。
ただでこそ、厳しい航空身体検査にさらに、心臓に負荷のかかる、検査をしなければいけない。
定年延長を希望する人の3割は不合格になる、
幸い、俺は、頭は弱いが体はラグビーと剣道で鍛えていたので合格できた。
そこで、熊本県の天草に新しく出来る航空会社天草エアラインで働くことになった。
天草の本渡市(のちに天草市になる)に1000Mの短い滑走路の飛行場が出来る。
滑走路が短いので39名のお客様を乗せる事の出来るDH-8という飛行機1機で会社が出来る。
その開発要員で頑張り、天草から福岡、熊本、後に大阪までDH-8で天草の人は旅行できるようになった。
本渡は交通の不便なところで、車で熊本まで2時間、福岡まで5時間以上当時はかかったので、DH-8で飛行場が開港した時は、福岡便は連日往復とも満席で大変だった。
満席のお客様を乗せ運航できるのは、機長としても楽しかった。
機長として、安全飛行以外に何がお客様にサービス出来るか。
天草の美しい景色を楽しんでもらおう。
福岡に行くときは普賢岳の近くを山すれすれに飛行して、お客様に喜ばれた。
時刻表では40分かかる飛行を25分で福岡に着陸したこともある。
通常の飛行は雲の中を飛行する計器飛行で飛行するのが、お役人の決めた飛行方法である。
それを機長の責任で雲や障害物から離れて飛行する有視界飛行方式で飛行することも出来た。
俺は常に有視界飛行方式で天草、福岡間を飛行した。
福岡空港からの帰りは、きれいな海、有明海を島原市の上空を飛行して、フカ料理の美味しい湯島の上を飛行して、俺が休みの時にしょっちゅう行っていたゴルフ場の上を飛行する。
ゴルフ場のキャデイが手を振って俺の飛行機を待っていた。
お客様にご案内します、現在窓の下に見えるゴルフ場は景色が良く楽しいゴルフを楽しむことが出来ますとアナウンスした。
ゴルフ場の隣は温泉になっています。
間もなく天草に着陸します。
副操縦士に温泉の女湯の露天風呂を探せ、
見えるかもしれないぞ。
見えるはずがない、ものを探したものだ。
馬鹿な男の物語。